読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

人生は「黒ひげ危機一発」だ。:オードリー若林著『社会人大学人見知り学部卒業見込』を読んで

僕には「好きな本は何ですか?」 と聞かれて、真っ先に「これです」と答えられる本があります。オードリー若林さんの『社会人大学人見知り学部卒業見込』というエッセイ集です。

かれこれ5回くらい読んでるのですが、読む度に新鮮な体験がある愛読書です。もし、放浪の旅に出ることがあれば、Macとカメラとこの本だけは持って行きたいくらい好きな、そんな本です。

 

この本は『ダ・ヴィンチ』という雑誌のなかで連載されていた若林さんのコラムをまとめた本で、2009年、つまりオードリーがテレビで売れ初めてから書かれたものとなっています。

この本のなかのエピソードで強烈に共感したポイントがあったので、今回はそちらをご紹介したいと思います。

 

樽に剣を刺しまくったオードリー

 オードリーと言えば、テレビに出るまで8年かかった苦労の芸人です。その間はずーっと、新宿のショーパブ「キサラ」で漫才やコントをやっていました。

ときには金髪にしてみたり、時事に切り込んでみたり、アメフトの格好で舞台上でただぶつかってみたり…。そんなことを8年間続けて、M-1グランプリ2009でブレイクし、「テレビの人」となりました。

 

そんなある日プレゼントで「黒ひげ危機一発」をもらった若林さんが、その当時のことを振り返って書かれていたのが以下の文章です。

そうやっていろんなことを試しながら、だんだん今のオードリーになっていった。今がベストな形かどうかはわからないけど、他人の樽からおっさんがバンバン飛んでいるのを横目に剣をたくさん刺した記憶はある。

 

そして、今の漫才の形が受け入れられた時、ようやくぼくの手元にある1つめの樽からおっさんが飛んだんだと思う。

いろんなスタイルの漫才やコントといった、いわば「穴」にひたすら剣を刺しまくってできたのがいまのオードリーのスタイルだというのです。

特にお笑いは、「正解」みたいなものが用意されていない状態からスタートすることになります。なので、自分たちのスタイルを確立するためにはこうした試行錯誤を繰り返さなければいけない、ということがわかると思います。

僕は、ふと思いました。

「これって、人生においても言えることじゃね?」、って。

 

「可能性の少ないことを続けるのが一番もったいなくね?」

僕は小学生の頃、ソフトボールの少年団に入っていました。「スポーツ少年団」と呼ばれるやつです。

その少年団に2年生で入団し、6年生の卒業までのんびり、ゆるーく続けていました。そして、訪れる卒業の時期。やはり、その仲間たちとの間では「中学に入ったらどんな部活動に入るのか?」という話題になります。

予想通り、そのまま野球部に進むという友人が多いなか、そのとき僕は全くソフトボールに関係ない部活動に入部しようと決めていました。

小学生とはいえ、「まぁ、このまま続けてても野球ではレギュラーとか無理そうだな…」みたいなことって分かっちゃうんですよね。なので僕は、もっと可能性のありそうな、別の部活(結局、ソフトテニス部にしました)を希望していました。

ちょうどこの本を読んだとき、このときに考えていたことを思い出したんです。

「ソフトボール」や「野球」の穴に剣を刺してみてもうんともすんとも言わなかった。だから、今度の機会では別の穴に刺してみよう。

まさにこんな感じ。

「もったいなくない?」とか、「続けないと意味がない」みたいなことを言われていた気がするんですけど、僕からしてみれば「可能性のないことを続けて、別の機会を失う方がもったいなくね?」ということしか考えられませんでした。

 

人生は「黒ひげ危機一発」だ

拡大解釈すると、これは人生にも当てはまります。

進路を選択するときも、服装を選ぶときも、今日の夕飯を決めるときも、僕たちは常にいろんな選択肢、つまり「穴」に剣を刺してるんです。

だから、ダメだったらまた別の穴に刺してみればいい。それでもダメだったら…、っていろいろ試してみる価値があるんですよね。

 そうやって、自分なりに試行錯誤を重ねてさまざまな穴に刺しているうちに、「なんかこの穴は無理そうな感じがする」とか、「こっちの穴はちょっと手応えあったから、こっち方面攻めてみるか」とか、そういう目測が立てられるようになってきます。

そして最後に余った一箇所を刺せばルール上は飛ぶ設計になっているので、その過程すらも楽しむことができれば万々歳ですよね。

 

こうして考えると、まさに人生は「黒ひげ危機一発」そのものだな、と。

その中でオードリーはまさしく、「おっさん」を飛ばすことに成功した芸人のうちの一組と言えるでしょう。

そんな「飛ばした側」である若林さんのこの本、その飛ばし方や飛距離、角度など、飛ばした側にしか分からない苦悩などが赤裸々に綴られていて、飛ばしてない方も含め、きっと多くの人に共感してもらえると思います。

文章も読みやすく、さらっと読めるので気になる方はぜひ一度手にとってみてはいかがでしょうか。