高専生こそ早いうちに進路を模索すべきだということ:「高専」に潜む光と闇

「工業高等専門学校」通称「高専」をご存知でしょうか?

高等専門学校は、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」を目的とする[1]日本の学校[2]である。

後期中等教育段階を包含する、5年制の高等教育機関と位置付けられている。一般には高専(こうせん)と略される。

 

高等専門学校 - Wikipedia

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2011年現在、全国にある高専の数は57校(国立51校、公立3校、私立3校)であり、これはほぼ「1都道府県に1校」あるという感覚です。

かくいう僕も工業高等専門学校出身であり、5年もの長い間ほぼ専門科目のみを学んできました。卒業後に大学3年次に編入し、晴れて「大学生」にジョブチェンジすることができました。

高専で学んできた内容の分かりやすい例を言うと、「旋盤」と呼ばれるわけのわからないデカい機械で円柱状の鉄の棒を削ってみたり、「レーザ」とかいう得体のしれないもので鉄板を切ってみたり…。他の学科で言うと、ロボットを制御したり、コンクリートを作ったり、プログラミングをしたり、電気回路を組んだりと、普通に暮らしているとあまり触れないようなマニアックなことばかり学んでいる学校です。

 

高専に合う人、合わない人

そんな高専ですが、学習内容を見て分かる通り合う人・合わない人 が極端に分かれてしまいます。運良く高専の学習内容・風土に合う人はどんどん力をつけていき、卒業後には大学生もかなわないほどの専門性を身につけてしまうこともしばしばあります。

例えば「高専ロボコン」なんてものはその最たる例です。あの大会は高専の中でも「ロボットが好きで好きでたまらない」という一部の精鋭?が知恵・知識・労力を総動員して技能を競う国内最高峰の学生のロボットコンテストです。完全に高専のホワイトな面です。

当然ながら、ロボコンで活躍する学生は優秀さが約束されているようなものなので、企業からの評価も非常に高く引く手数多で、いとも簡単に大企業への就職を果たします。

 

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 一方、そうでない人つまり「高専に合わない人」の現状はほんとうに悲惨です。実は僕もその一人で、初回の工場実習の時間に「安全第一」と書かれた看板がでかでかとぶら下がってるような場所で「ひとつ!実習中はいつも緊張した気持ちで作業する!」みたいな安全項目をクラス全員で復唱させられているときに、「あぁ、とんでもない学校に来てしまった…」と本気で思いました。

 

僕の場合は、「卒業しなきゃ」というネガティブなモチベーションからなんとか卒業できたのですが、中にはそういった専門的な勉強が本当に苦痛で学校に来なくなってしまった友人や、途中でドロップアウトしてしまった人もたくさん見てきました。

これは高専における大きな問題のひとつでもあり、全国的にも留年率・退学率は高く卒業までに1割の学生は学校を去ってしまうというデータもあります。

退学者が多い学校では,30%以上が退学していく学校もあります。私のクラスの同級生は43人入学したうち,3人退学し,3人留年しました。統計データによると,全国の高専の定員に対する卒業者数は90%程度であります。それでは高専全体の退学者数は約10%であるのかと考えるのはいささか早計で,実際には高専4年次の編入生で欠員が補充されているので,この数字よりも数%~数十%大きい退学率となります。留年する者はさらに多く,クラスの半数以上が留年ということもあるようです。

高専における留年率の高さはTwitter上でネタにされているほどで闇の深さを物語っています。

 

正直、入ってみなきゃわからない

こういうことを言うと、「高専が専門的な勉強をするなんてことは入学前にわかっていたことじゃないか」 という声が聞こえてきます。これはもっともな意見です。たしかに、パンフレットなり先輩の評判なりを拾っていくことで「高専がどんな学校か」というものはなんとなくイメージは掴めます。

 しかし、ぶっちゃけ入ってみないと分からないことだらけなんですよ。これが。というのも、オープンキャンパスでも華やかなプロダクトや、いかにも楽しげな部分しか見せないし、毎週ヘビーなレポートが課されるなんて話は一切聞かされないですし。

このへんは大学にも同じような問題があって、これを解決するために活動しているNPOなんかもあったりします。

偏差値重視の大学選びから脱却しよう。大学中退・ミスマッチ問題の解決策「WEEKDAY CAMPUS VISIT」について川原祥子氏に伺った : イケハヤ書店 by @IHayato

簡単にいえば、大学で行われている通常の授業を、高校生にも同じように受けてもらうというプログラムです。狙いとしては、高校生のために用意された模擬授業ではなくて、実際に行われている授業を受けて、こんなことを学んでいるのか、こんなに難しいのか、こんな様子で大学生はノートを取っているのか、なんてことを体験していただこうと思っています

ということで、いざ入ってみたら「思ってたのと違った!」みたいなことはいくらでも起こりうるわけなんです。たしかに、よく考えてみると必死こいて内定を取って入社した会社が合わずにすぐ辞めてしまう人も大勢いたりする中で、15歳の中学生が選んで入った学校が合わなかった、ということがない方がおかしいのです。

自分で選んだ進路といえ、中学卒業後に進路を極端に狭められてしまい、挙句ダメだったらドロップアウトするしかない、というのはあまりに酷な気がするのです。

 

 

高専生はもっと進路について早くから考えるべき 

この問題を解決する一つの手段として、1~2年次の低学年の頃からもっと自分の進路について真剣に考えるということが挙げられます。普通高校の生徒ならもっとしっかり考えるものだと思うのですが、高専自体卒業まで5年もあり、一部の優秀な学生以外「『進路』なんて4年生くらいからぼちぼち考えればいいや」とほとんどが思っているのが現状です。

ですので、高専に入学してしまったはいいものの「なんか合わないな…」と思っている学生は、周り人よりさらに真剣に、幅広い視点で進路について見つめるべきです。そして、学校なり外部の機関なり、そういった「ドロップアウト予備軍」の学生に対しての何らかのサポートをしてあげるべきなのではないかと思います。

制度上は高専生も一般の高校生と同じくセンター試験を受けて大学に行くことが可能なので、それもひとつの手段です。

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3年生を修了している場合は大学受験資格がある。そのため、普通高校の学生同様にセンター試験などを受けて大学1年生へ入学することができる。

よくあるパターンは、高専3年生の時にセンター試験等を受けて大学に合格し、高専の単位をしっかりと取得し、3年生修了と同時に大学へ入学する。この方法だと、普通の学生と年齢も同じとなる。 

このように、高専に入ったあとにドロップアウトしてもそれ以外の職能を活かして仕事をしてくのが可能だ、ということをもっと知っておくべきです。現状では、それがあまりに示されていなさすぎますし、いわゆる「落ちこぼれ」のレッテルを貼られたままになっているので、一歩抜けだして頑張ってみよう!という学生がなかなか出てきづらいのです。

最後に、九州大学芸術工学部の伊藤助教授の言葉で締めくくりたいと思います。

重要なのはバランスで、手を動かすことや目標を見定めることと、一方で新しいことを探し続けることの両方をおこなって、広い人生の可能性から納得できる答えを一生探し続けるしかないのでは、というのが私の得た経験則です。自分をだまして進路を決めた後の苦痛に比べると、新しい分野に挑戦するための努力なんて苦じゃないですよ(笑)

 

伊藤浩史 - 九州大学芸術工学部芸術情報設計学科