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『科学的とはどういう意味か』は数学ができなかった文系にこそ読んで欲しい。

森博嗣の『科学的とはどういう意味か』を読んだので感想を書く。

ここ数日は、本当に森博嗣のエッセイしか読んでいない。何しろ読みやすい。冗長な表現がなく流れるような文章のリズムなので、読んでいて疲れを感じない。そんなわけで、森博嗣のエッセイは電車の中とか、休憩時間にサクッと読むのに適していると思う。

まずは、文系/理系について紐解く

この本は2011年3月末に発刊された。東日本大震災の直後である。そのせいもあって、「科学」について説明のなかで震災に関する話――例えば津波や放射能に関する話がいくつか登場する。というか、そういう話題がかなり多い。

「科学的とはどういう意味か」というタイトルの本なので、当然「科学とは?」みたいな話になっていくのだが、その前にまず日本に蔓延している「文系」「理系」の文化、違いなどの説明から入っていく。

文系の人は理系に比べてコンプレックスを持っている傾向が強く(森博嗣の観察対象内では、理系の人はそこまで文系に対するコンプレックスはないという。これは、理系の僕も同意。)、学校で学ぶ数学や物理、などの理系科目と呼ばれる科目に対して拒絶反応を示しがちなことについて、なぜそうなったのかを森博嗣の視点で細かく分析してある。

そうした前置きが十分になされたうえで、改めて「では、科学的とはどういう意味か?」について論じられる。

僕自身、高等専門学校に通っている理系、厳密に言うと工学系の学生だったが、「科学とは何か?」ということについて、ほとんど考えたことがなかった。これは、森博嗣が勤務していた某国立大の学生たちも似たような感じで、いくら理系学生といえどこの問にズバッと答えられる人はかなり少ないのではないかと思う。

「科学的とはどういうことか」

この問に、森博嗣は1文で答えている。僕はこれを読んでひどく感心したので、これは読者の皆様にも同じ経験をしてほしいと思う。つまり、知りたければ本を読んでみてほしい。個人的には、この問答に触れられただけでも、この本を買う価値があったと思っている。

 

どちらかと言うと、文系に寄り添った科学本

ここまで書いてみると「なんだ、結局理系の人が書いた理系向けの理屈っぽい本じゃん…」と思われてしまいそうなのだが、それが違う。

たしかに理屈っぽいのだけど(というか、理屈っぽくない本は本としてどうなのだろうという疑問が残る)、この本のいいところは基本的には文系に寄り添ったスタンスをとっているところ。終始、「これだから文系は…」などとネットでよくあるスタンスで文系を下に見るようなことは一切しない。この辺りに品の高さを感じる。

例えば、学校の数学の勉強が苦手で嫌いになってしまった子供に対してはこんな言葉をかけている。

また、少々時間がかかっても、それは「できない」のではない、という評価を与えるべきだ。子供に「自分にはできない」と思わせてはいけない。それは、50メートル競走と同じで、ゴールまで走ることができないのではなく、単に少し時間がかかっただけ、そういう個人差であり、その場かぎりの優劣であると認識させることが、すなわち教育の基本だと僕は考える。

単純に計算を解くのが早いとか、公式を覚えていることだけはたいして重要ではない。「なぜそうなるのか」「どういう理屈なのか」という道理を考える習慣を付けることが大事だと森博嗣は言う。

現在の学校教育は、前述したような上辺だけが評価されて点数として可視化されてしまうので、あまりそこは重要ではないというエールのような意味も込められているような気がする。

また、本書では「別に科学を学ぶのはそこまで重要でもない」というようなことも言わない。

むしろ、「科学」から避けて生きるのは、確実に不利益を被り、そして危険であることを説いている。この部分は、執筆時に起こっていたであろう東日本大震災中の日本国民の反応の危うさについて書いている。

ひとつ具体例を挙げれば、「原発を認めている国に生きる者として、自分が住んでいる土地から最も近い原発の位置くらい知っておこう」とかそんな感じのこと。こういう例も山ほど出てくるので、改めて自分の認識を見直す、正すいい機会になる。

 

最後に

この本の終盤、声を出して笑ってしまった箇所がある。全編通して笑うところなんてない本だが、そこだけはしばらく笑ってしまった。それが以下の文。

この本では、「科学が楽しいものだ」ということをなるべく書かないようにしてきた。本音を書けば、「めちゃくちゃ楽しい」のだけれど、そういう個人的感情を他人に押しつけることには抵抗を感じる。でも、僕が文章を読めるようになったのは、ひとえに「その文章の内容を知りたかった」からであり、「知ることが楽しかった」からだ。 

 「本音を書けば〜」の部分は、もう本当に最高だと思う。

こういうことを書いてくれるから、僕は森博嗣が大好きだ。もちろん、研究者なので科学が好きに決まっている。そのうえで、それを押し付けることなく書いてきたこの本の終盤で溢れ出てくる本音。ここがたまらなく面白くて、買ってよかったと心から思った。

話が逸れてしまったが、この本は「ずっと文系だったので数学とか物理とか、アレルギーが出る」みたいな人にこそ読んでほしい。当然、そうでない理系の人が読んでも十分に楽しめる。「科学とは?」の質問に答えられない人は、読む価値があると思う。

 

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